スマート物流サービス

プログラムディレクター

田中 従雅

ヤマトホールディングス株式会社 常務執行役員 IT戦略担当

1981年ヤマトシステム株式会社入社、2011年ヤマトホールディングス株式会社シニアマネージャー(IT戦略担当)兼ヤマト運輸株式会社情報システム部長、2016年ヤマトホールディングス株式会社執行役員IT戦略担当、2019年現職。

個社・業界の垣根を越えて川上から川下まで物流・商流のデータを共有・活用しサプライチェーンを効率化するサービスの実現

サプライチェーン(SC)全体の最適化を図り、物流・商流分野でのデータを活用した新しい産業や付加価値を創出し、物流・小売業界の人手不足と低生産性の課題を解決する。先行するセキュリティ等の取組や、港湾内物流情報の電子化に向けた取組などとの連携を視野に入れつつ、国内外のSC上の様々なプレイヤーが持つ物流・商流データを革新的技術で見える化し、最適化に向けて共有・活用できるオープンでセキュリティの担保されたデータ基盤を構築する。現状では個社・同一業界内に限定した取り組みに止まっているものが、SC上の垂直・水平プレーヤー間のコネクティビティを高め、オンデマンド、トレーサビリティ等の価値を生み、高い物流品質の維持と荷主・消費者の多様な選択肢の確保を同時に達成し、イノベーション(新たなサービス、テクノロジー等)を創出できる物流・商流環境を実現する。

SIPを加速させる、12人の第一人者たちPD Interview

物流クライシスを
乗り越えるために。

サプライチェーンをつなぐ
「物流・商流データ基盤」の構築へ。

ドライバーや作業員の不足など、「物流クライシス」が叫ばれている今、製造・物流・販売等の事業者が連携し、総合的にモノの動きや商品情報を利活用することによって、サプライチェーン全体の生産性、効率性の向上が期待されています。田中 従雅PDに、日本の物流の現状について伺いました。

「サプライチェーン全体での
最適化を目指していきたい」

Q

まず、スマート物流サービスのプログラム概要をお話しいただければと思います。

PD

スマート物流サービスの発端になったのは「物流クライシス」という言葉です。インターネットショッピングの爆発的増加や、トラック運転手の不足などを原因とした、物流費高騰、商品価格への転嫁、引越し危機など、一般の消費者にも影響が出てきています。この、物流の危機的状況をどう乗り越えて、継続的なものにしていくかが大きな課題です。
日本のサプライチェーンは、「個別最適」の積み上げの中で発展してきましたが、その手法にも限界が見えてきたので、「全体最適」、つまりサプライチェーン全体での最適化を目指すというのが、このプログラムの目的です。

Q

物流サービスには、B to C、B to Bがあり、それぞれ状況が異なっていませんか?

PD

B to Cに関しては、「物流クライシス」の前に「宅配クライシス」という言葉が出たときから各社の取組が進み始めていますので、今回のスマート物流サービスでは、もっと危機的な状況にあるB to Bを中心に、日常生活に不可欠な日用消費財、加工食品、医薬品などの、製造から卸、小売りまでのサプライチェーン全体での最適化に取り組もうと思っています。

「質のいい情報をいかに集めていくのかが重要」

Q

今、B to Bの物流はどんな状況でしょうか?

PD

2つの角度があると思っていて、1つは、例えば大手アパレル企業のようにサプライチェーン全体を一気通貫で考える方法。それに対して、もう1つは従来の主流である、製造して卸を通して委託販売する方法。製造と販売の中間に倉庫があって各社が商品を入れて、そこから配送していく形態です。モノの動きや商品情報が集めやすいのは前者。逆に後者はどういうチームを作って連携するのかという検討を急がないと、厳しい状態になるのではないかなと思っています。もちろん、バイニングパワーが大きな、大手スーパーマーケットや大手コンビニエンスストアなどは、今後さらに強くなると思いますが、サプライチェーンを通した情報収集は簡単ではないと思います。情報をいかに集めていくのかというのが、キーワードではないかと思います。

「それぞれの企業が変革に向けて
意識的に協調する」

Q

本プログラムの「物流・商流データ基盤の構築」に際して、乗り越えなくてはならないハードルはありますか?

PD

日本の場合、サプライチェーン上で扱われる情報が、いまだ紙伝票でやり取りされている、形式が統一されていない、などの原因で分断されており、これをつなぎあわせないといけません。これには、最新の画像認識技術やAIが活用できると考えています。また、データの共有化においては、個人情報を含めて、情報の取り扱いに対する規制は絶対にクリアしないといけないと思っております。もう1点は、「物流クライシス」というキーワードの中で、それぞれの企業が、物流・商流変革に向けて意識的に協調していただくことも重要です。例えば、サイズの共通化した段ボール箱などを使うことによって、積載率の向上や自動化の普及などが期待できます。

Q

それは各々の企業戦略にも関係していくことですよね。

PD

例えば、小売りまでの配送を例に挙げると、これまで1日4回配送していたものを、物流効率を考えて1日3回にすると、商品の鮮度はほんの少しだけ下がるという話になります。その辺のバランスをいかにとるかが、なかなか難しいところですが、スマート物流サービスでは、きめ細やかなサービスなど日本の物流の良さを残しながら、全体の効率化を進めていきたいと考えています。

「モノの動きを見える化するための
技術開発が急がれます」

Q

今、日本の中における物流の一番ネックになっているところは?

PD

例えばピッキングロボットの話をすると、大きさの揃った段ボール箱なら扱えるけれども、大きさがあまりにもバラバラな荷物は扱えません。それから、自分で選べるギフトセットというのがありますが、あれは、誰かが倉庫内で詰め合わせ作業をしているのです。これを自動化するのは結構難しい。そこがネックかなと思いますね。あとはトラック運転手のなり手が減少しています。これは特に大きな問題だと思います。

Q

スマート物流サービスにとって、産学官連携のメリットをお教えください。

PD

今回、研究開発計画を検討する過程で数多くの方々と話をしました。その中で、「我が国ではロジスティクスを支える人材育成が極めて弱い」という意見が多く聞かれました。我々は、最新の画像認識技術やAI、数理最適化などの活用を想定しているので、今後、いろいろな大学との連携を積極的に進めて、ロジスティクス分野で将来活躍してくれる若い人材育成の面でも貢献したいと考えています。将来的には、物流・商流データ基盤で集めたデータの一部を活用した新たな課題解決に向けた共同研究のようなことにもつながると良いと考えています。また、ベンチャー企業にもできるだけこういう場を使って、新たな価値提案をしてもらおうと思っていて、日本のベンチャー企業の活性化にもつながれば良いかなと思っています。「産」に関しましては、この課題を共有するチームをしっかり作ることが大切です。社会実装を意識した形で仲間作りをして、産学官連携をうまく進めていけたらと思っております。あともう1つ、次世代電子タグの実用化などに関しては、民間の方にも早いうちから出資していただけるような方法をとっていけたらと考えております。

「物流は、日本の血管。
途切れさせてはいけないんです」

Q

PDご自身がお考えになる理想の物流のイメージをお聞かせください。

PD

物流とは日本全国に物を流していく、ある意味、血液を流す血管、みたいなものだと思っているので、営利目的だけでやって、これを途切れさせてはいけないと思っています。ユニバーサルサービスのような側面も今後、議論していかなければいけないのかなと考えております。それをどうやってやるか? という話に関しては、将来的には人海戦術が成り立たず、ドローンや自動運転に切り替えていかなければならない時代がきっと来ると思います。ある程度はテクノロジーに頼らないと。人でカバーしていくというのはそう簡単ではないと思います。ただでさえ就労人口が減っていきますから。

Q

そういった意味でも「物流・商流データ基盤」の構築は重要ですね。

PD

ドローンなり、自動運転なりデータ基盤を活用するソリューションは変わっていくけれども、この「物流・商流データ基盤」は絶対に使えるものになっていくと思っています。
まずは社会実装への目処をつけることが重要です。