AI(人工知能)ホスピタルによる
高度診断・治療システム

プログラムディレクター

中村 祐輔

公益財団法人がん研究会
がんプレシジョン医療研究センター 所長

東京大学名誉教授、シカゴ大学名誉教授。
1977年 大阪大学医学部卒業、病気の解明や治療に役立つ遺伝子マーカーを発見し、「ゲノム医療」を牽引してきた。
東京大学医科学研究所分子病態研究施設教授、東京大学医科学研究所附属ヒトゲノム解析センター長・教授、理化学研究所ゲノム医科学研究センター長、独立行政法人国立がん研究センター研究所所長、内閣官房医療イノベーション室長、シカゴ大学医学部血液・腫瘍内科教授・個別化医療センター副センター長等を歴任、2018年より現職。論文は1500編以上、引用回数は17万3千回以上。

AIがあなたに届ける
優しくて効率的な医療!

超高齢社会における医療の質の確保、医療費増加の抑制、医療分野での国際的競争力の向上、医療従事者の負担軽減のために、医療機器等やIoT(internet of things)機器を活用して医療ビッグデータを構築する。さらに、AI技術を活用し、医療現場での負担軽減につながる、診断補助・教育やコミュニケーション支援等を目指す。

SIPを加速させる、12人の第一人者たちPD Interview

AIは医療の危機を救えるか?

医療従事者の負担軽減にも
期待が高まる「AIホスピタル」

画像情報、病理診断情報などのビッグデータを活用した高度な医療サービスが次々と開発されています。
今、注目を浴びる「AIホスピタル」の可能性について、ゲノム医療の第一人者として知られる中村 祐輔PDにお話を伺いました。

Q

まずは、現在の医療現場が抱える課題からお聞かせください。

PD

医療は高度化し、先進化し、かつ多様化しています。そのため、医療現場にかかる負荷も増大し、個別化医療の実現を妨げているのが現状です。患者さんに高度な医療を提供しつつ、医療現場の過度な負担を減らすためには何をすればいいのか? それが私たちの課題です。

「電子カルテを共有できる
医療データベースを構築すべき」

Q

超高齢社会において、日本の医療はいかに変わるべきでしょうか。

PD

日本では、血液検査、生化学的な検査、画像検査のデータなどを含む電子カルテシステムが統一されていない、共有されていないのが現状です。すでに台湾では検査情報などが共有されていて、例えば台中の病院で受けた血液検査や画像検査のデータを台北で見ることができます。超高齢社会において、今から有用なデータを収集、抽出し、そのデータをいかに活用していくかを早急に考えるべきです。しっかりとした医療データベースを作り、それによって患者さんにより適切な予防法、治療法を提供し、効率的な医療を提供しないと、医療費の増大などの問題に対処できません。

Q

データベースが構築されると、より個別化医療が実現しやすくなるということですね。

PD

例えば、糖尿病になる原因はいくつかあり、インスリンを作れない、インスリンに対する反応が悪い、インスリンは作れるけど、うまく分泌できないなどがあります。他の疾患でもそうですが、その原因に応じて薬を使い分けできれば、治療期間が短くなり、それは、医療費の削減、労働人口の確保につながります。
また、100人の大腸がん患者がいれば、同じがんでもそれぞれのがん患者の遺伝子異常パターンは違う、だからがんの進行の速さも違うし、薬の効き方も違うわけですし、さらに生まれ持った遺伝的な個体差によっても副作用の現れ方が違います。
それぞれのフェーズで、患者さんにより安全で、より効果的な治療法を提供していくときに、その参照となる膨大で有用なデータが必要です。それらの膨大なデータを生かすために必要なのがAIなのです。AIは必ず医療の未来を変えていきます。

「医療情報は誰のもの?
それをはっきりさせないといけない」

PD

また違った観点から見ると、例えば災害が起こると投薬情報も、それまでの診療情報も失われる可能性が高いわけです。停電で電子カルテにアクセスできない場合もあります。そのような状況を想定すれば、全ての医療データを個人のスマートフォンに残すとか、マイナンバーにひも付けして一括管理する方策もありだと思います。しかし、そこにはプライバシーの問題があります。そこで今、取り組んでいるのは秘密分散方式。1人の患者さんのデータを何カ所かのクラウドに分散して置いておきます。この方式は積極的に進めてもいいのではないかとは、個人的には思っています。

Q

次にAIを用いた診療時記録の自動文書化への取り組みについてお伺いします。

PD

医療現場を見てみると、医師、看護師、あるいは介護士たちは、本来の自分の仕事に制約を受けるくらい記録することに膨大な時間を費やしています。キーボードを見ながら、横目で患者さんと会話をしても、なかなか心が通じません。そこでもっと心の通った医療ができるような状況をAIが補助できればと考えています。
しかし、医療現場での会話をそのままテキスト化するのは、かなり難しいです。特に外来で非常に騒がしい環境下で音声をテキスト化し、記録するというのは思ったより難しいというのが今の実感です。
辞書に関しては37万語の医療専門の辞書を既に作成していて、今それを使って話し言葉をテキスト化する場合の精度を上げようとしています。

「超精密検査ががんの超早期発見を実現する」

Q

3つ目の研究課題である「がん等の再発の超早期診断につながるAI技術を応用した血液等の超精密検査の開発」についてお伺いします。

PD

腫瘍マーカーの場合は、早期がんでは検出感度は低いですし、正常と異常の線引きも簡単ではありません。しかし、AI技術を応用した超精密検査にすると、精度としては非常に高くなると思っています。われわれが今、開発している検査だと、手術可能なレベルでがんを発見することが70から80パーセントぐらいの割合で可能になっています。腫瘍マーカーの場合、肝臓がんで30パーセント、肺がんで50パーセントぐらいの陽性率ですので、70、80パーセントの割合で見つけられるのは、かなり精度の高い検査方法です。血液検査と同じ方法で済みますから、患者さんにも負担の少ない、良い検査だと思います。

「標準化の主導権を握る必要はあるが
テクノロジーは基本オープンに」

Q

今、行われている研究開発の知的財産管理についてお伺いします。

PD

知財を特許化してがっちり抱え込んでしまうと、みんなが使ってくれなくなります。技術を広く提供することによって、多くの人たちに利用してもらうことが重要と考えています。そうなると、自分たちの技術が標準化されることになります。従って、ある程度、オープンにしながら標準化の主導権を取る必要があると思います。国際標準化とオープン/クローズ戦略というのは表裏一体の関係です。そこは慎重に戦略を考えていくように努めます。

「新しい技術を素早く取り入れて
患者さんの心と向き合う医療を」

Q

最後になりますけども、PDご自身がお考えになる未来の医療とは?

PD

画像診断や病理診断では、専門医の不足と偏在によって医療の地域格差が生まれてきています。しかし、5Gの時代になり、AIの精度も上がって、医療データを送れば非常に精度の高い診断結果がすぐに返ってきます。AIの活用によって、診断の地域格差やいろいろな意味での知識格差が解消されると医療の質が高く維持されます。
今の医療現場を考えると、残念ながら、多くの医療関係者が疲弊している状況です。新しい技術や新しい道具が生まれたときに、それをうまく使いつつ、医療スタッフと患者さんの心が通い合う本来の医療を取り戻すことが、このプログラムの一番大事なことだと思っています。