スマートバイオ産業・
農業基盤技術

プログラムディレクター

小林 憲明

キリンホールディングス株式会社 取締役常務執行役員
内閣官房 イノベーション政策強化推進のための有識者会議
バイオ戦略有識者

1983年三重大学工学部卒業。同年キリンビール(株)入社、1998年国際ビール事業部(中国・東南アジア担当)、2004年経営企画部部長代理、2010年キリンビバレッジ(株)ロジスティクス本部生産部長、2014年キリン(株)執行役員R&D本部技術統括部長、2017年キリン(株)取締役常務執行役員兼キリンホールディングス(株)常務執行役員。2018年SIPスマートバイオ産業・農業基盤技術プログラムディレクター就任、2019年キリンホールディングス(株)取締役常務執行役員、内閣官房 イノベーション政策強化推進のための有識者会議 バイオ戦略有識者

次世代バイオ産業・農業における
「食」のサステナビリティ

今、バイオテクノロジーに期待されていることは、デジタル技術も取り入れた取組みにより地球規模の持続的成長=サステナビリティの実現である。なかでも、生活の基盤ともいえる「衣」「食」「住」での寄与は大きく、これらのサステナビリティの実現は不可欠である。本SIPは、「食」のサーキュラーエコノミーのユースケースを構築するものである。

SIPを加速させる、12人の第一人者たちPD Interview

食がつなぐ、
持続可能な成長社会

「スマートフードシステム」構築を
目指して。

「スマートバイオ産業・農業基盤技術」プログラムは、バイオとデジタルの融合や、生産、流通、消費までを含めたビッグデータの利活用により、農林水産業の生産性向上や食による健康増進などを目指しています。小林 憲明PDに、日本の食の近未来についてインタビューしました。

Q

「スマートバイオ産業・農業基盤技術」の概要をお聞かせください。

PD

今、日本の抱える農業の最大の課題は何なのかというと、1つは高齢化ですよね。平均が66.8歳。(農林水産省 農業労働力に関する統計 平成30年)農業就業人口が減ってきて、そして、耕作放棄地が増えているわけですから、生産性を上げる取り組みは絶対必要です。
また、開発・生産、流通・販売、それから、静脈系である残渣ですよね。こういった、1つの食が回る「スマートフードシステム」をつくることで、サステナビリティのある成長社会に食が貢献をしていく。そういう取り組みと言えます。
生産だけ、販売だけを最適化しようとすれば、そこは最適になります。つまり、それ自体は最適なのだけど、本当に食のサイクルを考えたときに「それは地球に対して最適でしょうか?」というのは常に見ていかなければならないと思っています。

Q

まずは、開発・生産についてお伺いします。

PD

今までの開発のやり方というのは、必要なデータだけ残して、要らないものは捨てていく。しかし、実は要らないデータの中にもとても有用なものがあります。失敗も大切なデータです。そうすると、そういうものを貯めていくと、農業そのものを効率化できます。もう1つは、ゲノム編集技術です。地球温暖化もありますし、あるいは人口爆発に対応できる食品の開発も必要です。生産に関しては、お米の生産現場の自動化は開発が進みつつあるのですが、果樹や根菜の自動化などは開発が始まったばかりです。また、栽培方法においては、土地の持つ特性に焦点をあて、例えば自然の持つ微生物のマイクロフローラの活用によって、今よりも地球にやさしく、かつ効率よく作物ができる可能性があります。

「フードロス、フードウェイストを
減らしていくためのデータ流通」

Q

流通では、食品の廃棄が問題になりましたね。

PD

フードロスでは、流通保管時などに品質の低下や量の減少をどう防いでいくかが課題です。
今は、特に輸出をするときには、コンテナや倉庫等の中でロスが非常に多く発生しています。輸送や保管の環境改善が求められます。
また、作物自体の改良や包装材の工夫などから、フードロスを減らしていくことも可能です。フードウェイスト(食料廃棄)は食べられるのに捨てられるものです。最近話題になったものが恵方巻です。欠品できないから大量に作るのではなく、デジタル技術や情報技術を駆使することで、かなり需給精度も上げられるでしょう。
最近は、中食がどんどん発達していますが、ひと手間かけてレンジでチンする食品も伸びています。そのような消費者の動向を加味したうえで、より効率よく様々な食材がムダなく使われる加工食品の開発もよいと思います。
スマートフードチェーンというのは、必要なものを必要なときに必要な量だけ生産しお届けするという仕組みをつくること。日本の場合、南北に長いので、それぞれの特徴を生かして何をどれだけ作るのかを情報流通できれば、全国で調整することも可能となるでしょう。そういう素地をつくりたいというのが1つの目標です。

「生産者と消費者の思いをつなげれば、
ムダをなくせる」

Q

農業に限らず、すべての産業はデータの収集、分析、活用が必要となりますが、これらの構築に際して、乗り越えなくてはならないハードルはありますか?

PD

日本の農業を産業として見たときに、やはりデータがばらばらでは意味がありません。これだけ日々データが発生しているので、まずはそれを集めてつなぎ、さらに生産者と消費者をつないで、情報のやりとりをインタラクティブなものにしたいと思います。
例えば、テレビでこんなものが身体に良いというと、一気に消費されることもあります。今の技術だと、SNSで何が関心度が高まっているかなどを調べられます。そんなことも含め、需給予測のデータの精度が上がれば良いと思っています。

「食による健康をめざすことも目標です」

Q

食を通じて生活習慣病リスクの低減、健康寿命の延伸という目標も掲げられていますが。

PD

100歳まで健康でいられる。これは国の政策でもあります。食と健康の関係を明らかにしたうえで、その付加価値を提供するような農作物であったり、あるいは、食べ方であったり、このような新たな市場を作り出します。
まずは、軽度不調、未病といわれるところと食の関係を調べています。そのデータに基づいて、現在30社ぐらいの食品関連企業がそのデータを使って、食素材、あるいは、製品を開発しようと名乗りをあげています。「食による健康」を目指すのも、第2期の目標です。具体例でいうと、脳の健康に良い食べもの。あるいは、免疫の強化、免疫の維持などに関わるところは、多くの企業の関心の高いところです。

Q

次に食物残渣への取り組みはいかがでしょう。

PD

実は、食物残渣ともう少し上流でも出る、稲わらやもみ殻などの非可食部分、あるいは、食べられる部分でも捨てられる部分をどういう風に使っていくのかという取り組みです。稲わらを例に挙げると、環境に優しい水で抽出し、汎用性の高い原料である「C6糖」がつくれないかというのが1つ。2つ目はその「C6糖」から付加価値の高いバイオ素材をつくるという、この2つに取り組んでいます。また、バイオのものづくりで問題になってくるのが排水です。バイオ技術で環境を汚してしまってはいけません。

Q

これらの研究開発を進めていくために、克服しなければならないハードルは?

PD

2つありますね。1つは、シーズドリブンにならないことです。シーズドリブンにならずに、社会のニーズと合っているのかというのを、研究成果の中で再点検すること。
それからもう1つは、協調領域です。ビッグデータ時代になって、様々なデータからいろんなものが見えるようになるといわれていますが、一企業、あるいは一組織が集められるデータは、そんなにビッグではありません。しかも、偏っている。従って、お互いに持ち寄る、お互いに協力して収集、分析する。何を競争し、何を協調するのか。重要なことは何なのか見極めたうえで、企業の協力を求めていくのが、もう1つの課題だと思います。

「都会の人口集中、高齢化社会、
貧困対策にも切り込める」

Q

最後に、これからの日本の農業を語っていただければ。

PD

例えば、都会の若者が5Gの通信を使って遠くからロボットをあやつり労働力不足を補うとか、副業可の広がりも活用し土日に実際農村に行ってみてみることも可能になるでしょう。また、東京の空き地を植物工場にすれば、65歳以上のシニアの方たちも事業に携われるかもしれない。
「食」は様々な事業とつながっていますし、そこにテクノロジー、サイバー、フィジカルのようなシステムを応用することで安全保障的に農産物は確保しつつ、東京の人口集中化や、高齢化、貧困対策というようなところまで切り込めるような、きっかけづくりができればと思っています。

「スマートバイオ産業・農業基盤技術」は
SDGs の達成に貢献します