光・量子を活用した
Society 5.0実現化技術光・量子技術で未来を創造する

プログラムディレクター

西田 直人

株式会社 東芝 特別嘱託

1978年慶應義塾大学大学院工学研究科電気工学専攻修士課程修了。同年、株式会社東芝入社 生産技術研究所配属。同社、生産技術センター所長、生産企画部部長、技術企画室室長、執行役常務、執行役上席常務、取締役、執行役専務等を歴任。現在、同社特別嘱託。工学博士。

日本が強みを持つ光・量子技術の
国際競争力のさらなる向上へ

Society 5.0実現には、サイバー空間とフィジカル空間を高度に融合させるサイバーフィジカルシステム(CPS)の構築が鍵となっている。現在、IoT/AIからスマート製造へと投資が開始されているが、社会・産業界共通の投資を阻むボトルネックが存在している。そこで、我が国が強みを有す光・量子技術を活用し、これらのボトルネックを解消可能な加工、情報処理、通信の重要技術を厳選・開発し、「レーザー加工市場シェア奪還のための日本発コア技術等の製品化」「ものづくり設計・生産工程の最適化」「高秘匿クラウドサービスの開始」等を達成し、Society 5.0実現を加速度的に進展させる。

SIPを加速させる、12人の第一人者たちPD Interview

光・量子テクノロジーが
Society 5.0を支える。

サイバーフィジカルシステム構築の
鍵を握る技術とは?

Society 5.0の実現には、サイバー空間とフィジカル空間を高度に融合させる「サイバーフィジカルシステム(CPS)」の構築が必要です。しかし、そこには解決すべきボトルネックが存在します。そのボトルネックを光・量子のテクノロジーで解決する狙い所について、西田 直人PDにお話を伺いました。

「光・量子を活用したSociety 5.0実現化技術とは」

Q

プログラムの概要をお聞かせください。

PD

この研究開発のテーマは、CPS(サイバーフィジカルシステム)です。フィジカル空間の中にある豊富なデータをサイバー空間に集め、AIなどを用いて解析、その結果をフィジカル空間に戻して、そのフィジカル空間を豊かにするということです。そして、研究内容は「レーザー加工」と「光・量子通信」と「光電子情報処理」と大きく3つあります。

「レーザー加工を例題にCPS化を実証」

PD

「レーザー加工」はCPSのフィジカル(physical)の部分に相当します。実際に材料を加工したりするところですね。「光電子情報処理」はビッグデータを解析するサイバー(cyber)の部分です。その両方をつなぐ、情報のやりとりをする手段が「光・量子通信」で、量子特有の性質を利用してデジタル情報のセキュリティを強化します。
「レーザー加工」は非常にエネルギー効率がよく、短時間で様々な加工ができるので、世界の工作機械の売上高、生産高のだいたい15から20パーセントくらいを占めていて、利用の伸び率も高くなっていますね。とても高いポテンシャルを持っています。
一方、CPSへの搭載という観点からすると、レーザー加工はとても難しい技術と言えます。実は、レーザー光のどのような原理によって材料が加工できているのかいまだ完全に解明できておらず、加工条件をデジタル化するのが非常に難しいことと、CPS化のための電子デバイス部品の高度化、低製造コスト化がボトルネックとなっています。
しかし、この難しいレーザー加工のCPS化が実現すれば、ほとんどの製造装置のCPS化は可能であると実証されます。

Q

ということは、レーザー加工機のCPS化を契機に、例えばですけど、製造分野のロボットにもCPS化というのが応用できるということですね。

PD

そういうことです。CPS化を実現して、ほとんどの製造装置のスマート化が可能であることを先導実証するのがこのプログラムの目指すところです。「レーザー加工」を高度化しようというのは、スマート製造のひとつのモデルケースだと思ってください。

「CPSをシステムとして
社会実証するために必要なもの」

Q

レーザー加工のCPSを社会実装するためにも「光・量子通信」、「光電子情報処理」が必要になるということでしたね。これらはどのような研究内容なのでしょうか。

PD

先ほどの繰り返しとなりますが、フィジカル空間の豊富なデータを自動でサイバー空間に集め、AIなどを利用して解析し、その結果をまたフィジカル空間に戻す、そうするとビッグデータの処理にかかる時間が膨大になりますので、その処理にかかる時間をいかに短くするかと、あとは情報のセキュリティ。それらが一体にならないと、私たちが目指そうとしているCPSはできないということです。
デジタル化された製造現場の知恵や製造ノウハウはビジネス価値が高いのでハッカーの格好のターゲットになり、万が一情報が洩れてしまうと企業の存続を脅かすことにもなります。また、これまでセキュリティの基盤技術だった公開鍵暗号は量子コンピューターの発展によって近い将来に解読されてしまうことがわかっていますので、そのためのセキュリティ技術の根本的な見直しが迫られています。
「光・量子通信」では、これらの問題を技術が進展しても危殆化しない、つまりコンピューターの性能が向上しても安全性が低下しない量子暗号技術を用いて解決し、さらに大事なデータを分散保管し、将来にわたって安全に管理する量子セキュアクラウドシステムで究極のセキュリティを目指します。
また、「光電子情報処理」は既存のコンピューターでは手に負えない問題を、イジング型コンピューター、NISQコンピューター、誤り耐性量子コンピューターなどの革新的計算資源を適材適所に生かしたアクセラレータ基盤を開発し、これらを活用して全体での高速最適化を図るものです。
最近、よくニュースで見かけるようになった量子コンピューターに可能性を感じる企業は多いのですが、ほとんどの場合、活用法がイメージできていません。光電子情報処理で、活用の筋道を明確に示していきたいと思います。

「社会実証へ向けての展望」

Q

全てはSociety 5.0の実現に向けて、ということになると思うのですけれど。産業面を支える、というのでしょうか。PDご自身がお考えになるSociety 5.0はどのような世界になっていくとお考えですか。

PD

まず、本課題では、ものづくりへのCPS応用の起点となるひな形システムを構築して、企業が自由に試し、技術導入できる基盤づくりを目指していきたいと思います。Society 5.0時代のプラットフォーマーを創出する素地を日本に作ること。これこそが日本が強みを持つ光・量子の研究リソースを結集した「光・量子を活用したSociety 5.0実現化技術」の意義ですね。CPSというのは、ものづくりだけではなく他のところにも展開できます。スマート製造の他に、例えばスマートモビリティ、スマートエネルギー、スマート医療などの分野でも活用ができると考えています。
それに加えて、CPSを全世界に展開し、それぞれが持つ課題に対して日本は非常に短い期間で答えを返してくれるということを各国が認識していくことで、日本のプレゼンスがどんどん上がり、いずれCPSのリーダーシップを取っていく、そういう姿ができるといいなと思いますね。

Q

最後にPDの意気込みをお聞かせください。

PD

この研究課題に集まっていただいた研究者とともに、将来にわたり日本の競争優位を守るため、新しい全体最適のモデルを作り上げることを目指しています。Society 5.0でうたっている経済の発展と我が国および国民の安全・安心を確保し、一人ひとりにとって豊かで質の高い社会を実現することが、この研究の最終ゴールなのです。