統合型材料開発システムによる
マテリアル革命

プログラムディレクター

三島 良直

東京工業大学 名誉教授・前学長
国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構
技術戦略研究センター センター長

1975年東京工業大学大学院理工学研究科修士課程修了、1979年カリフォルニア大学バークレー校大学院博士課程修了、同校アシスタントリサーチエンジニア、1981年東京工業大学精密工学研究所助手、1989年同助教授、1997年同大学大学院総合理工学研究科材料物理科学専攻 教授、2006年同大学大学院総合理工学研究科長、2010年同大学フロンティア研究機構長、2011年同大学理事・副学長(教育・国際担当)、2012年~2018年同大学学長。文部科学省科学技術学術審議会委員、経済産業省産業構造審議会委員等多数の政府委員会要職を歴任。

マテリアルズインテグレーション(MI)によって
構造材料開発におけるコストと時間を大幅に低減

人工知能(AI)を駆使した材料開発に欧米、中国など諸外国が集中投資し、ものづくりが大変革期を迎えている。日本の材料開発分野での強みを維持・発展させるためには、材料開発コストの大幅低減、開発期間の大幅短縮を目指す必要がある。日本の材料分野における質の高いデータを利用し、世界にさきがけて取り組んできたマテリアルズインテグレーション(MI)を発展させ、世界最先端の逆問題マテリアルズインテグレーション(性能要求から最適材料・プロセス・構造を予測)を実現し、社会実装することによって、超高性能材料の開発につなげるともに信頼性評価技術を確立する。

SIPを加速させる、12人の第一人者たちPD Interview

「材料」と「情報」の融合が、
マテリアル開発を一新する。

「逆問題MI」の手法で、
国際競争力のある材料を短時間で開発。

欧米や中国などが、AIを駆使し、集中投資しているマテリアル開発。もともと、材料立国と言われた日本としても、これを黙って見過ごすわけにはいきません。マテリアルズインテグレーション(MI)を活かし、材料工学と情報工学の融合する本プログラムについて、三島 良直PDにその材料開発手法をご教示いただきました。

Q

「統合型材料開発システムによるマテリアル革命」の概要についてお聞かせください。

PD

材料工学に情報工学分野を融合すると、非常に効率の良い材料開発ができるということです。
AIを駆使することで、今まで気が付かなかったこと、今までわからなかったことが解明されるかもしれないという期待があります。そういう気付きを与えてくれるシステムを作り上げることが今回のプログラムであり、それを活用して材料を作るシステムを、「統合型材料開発システム」と呼びます。
これができるようになると、マテリアル革命につながり、国際競争力のある材料を数多く、日本から世界へ発信していくことが可能となるはずです。

「欲しい性能から、
必要となる材料の構造・特性を提案」

Q

さらに概要には、欲しい性能から材料・プロセスをデザインする「逆問題MI (マテリアルズインテグレーション)」を開発という言葉があります。つまり、シーズではなくニーズドリブンが「逆問題MI」ということでしょうか。

PD

そうです。要するに、こんな性質を持つ材料が欲しいときに、どういう材料を、こう処理をすると、ここに辿りつくに違いないということを、逆算して材料を作り出せば、今までよりずっと早くマテリアル開発ができます。そこが、いわゆる「逆問題」と言われています。

Q

それでは、研究内容をA領域からお伺いします。

PD

A領域というのは、先ほどお話しした「逆問題MI」です。今、実際に使われている材料がどうしてそういう特性を持っているのかという信頼のおけるデータを集めて、データベースを作っていきます。そこに、様々な情報科学的な計算手法を取り入れて「順問題」をきれいに解いておくことが一番の鍵です。そして、いよいよ「逆問題」。欲しい性能から必要となる材料の構造、特性を提案して、それを実現するプロセスも提案できるようなシステムを構築する。こういう仕組みを作るのがA領域の役目です。 * 図参照

図:マテリアルズインテグレーション

「このMIをみんなが使えることが大切」

PD

A領域の説明で、MIシステム構築して、構造用材料の開発を、できるだけ短期間かつ、できるだけ研究開発費を使わずに、効率良くマテリアル開発をするというところまでお話ししましたが、このプログラムの出口は何かというと、NIMS(国立研究開発法人物質・材料研究機構)に、このシステムを設置して共有するということです。大学の研究者も企業の研究者も、システムにインターネットで入って自分たちが作りたいものを開発する。このMIを社会実装するというのがとても重要なことです。
第1の社会実装は何ができれば達成されるかというと、このMIをみんなが使えるということです。このシステムを日本の材料産業、重工業が使って次々に新しいものを作り出していくことが出口戦略です。

Q

社会実装するために、克服すべき点は?

PD

まずは「逆問題」に対応したプログラムをたくさん構築する必要があります。そして、精度も向上させなければなりませんし、更には膨大なデータが必要です。
また、これらのデータは必ずしも同じフォーマットではないため、全部整理し直す手間が必要です。本当の意味のシステム作りです。これが難しいところです。
それから、MIシステムができてきた時には、協調領域までならみんながある程度データを出し合いながらマテリアル開発を行いますが、それが競争領域になったときに、どういう仕組みで企業の人たちが使えるようにするか、知財の問題を解決済みのシステムにしていかなければいけないと思います。

「CFRPや、粉末3D積層に大きな期待」

Q

次にB領域のCFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastics=炭素繊維強化プラスチック)については?

PD

このCFRPというのは、炭素繊維をプラスチックに埋めたもので航空機の機体や翼に使われます。実は日本が非常に強い領域で、ボーイングの航空機に採用されています。
航空機のCO2削減のための軽量化、それから落雷に対する難燃性という要請もあり、更に高度なものを作っていくプロセスに、このMIを試していきたい。それがB領域です。

Q

次にC領域「粉末3D積層」をお教えください。

PD

粉末3D積層は、簡単にいうと、金属の粉をある程度の広さに敷き詰めて、そこにレーザーか電子ビームを当てると、当てたところの粉が溶けて1枚の板になります。その上に粉をまた載せて、レーザーを正確にコントロールしながら積み重ねていくことによって、例えば円筒等も作成できます。
もっと複雑な部品を作ろうとしたときに、通常であれば、材料を溶かして、鋳型に入れて固めて、鋳型を壊すという行程がありますが、この手法では精度にかなり限りがあるので、レーザーを用い、ミクロンオーダー、あるいはサブミクロンオーダーのコントロールをしながら加工すると、すごく複雑な形態のものができあがります。これが3D積層というやり方です。
これ以外に粉末を高温、高圧でギュッと押して作るという「粉末冶金」というやり方もあります。これも非常に有効な方法です。これらを駆使した部品作りで、世界の航空産業の中に十分に割って入れると考えています。

「日本を再びマテリアル立国に」

Q

最後にPDがお考えになる、材料研究開発の展望をお聞かせいただけますか。

PD

この統合型の材料開発システムができると、今までに比べて短時間で良いマテリアルができ、しかもこれだけのシステムが動けば、鉄鋼材料に限らず、チタン合金やニッケル合金にも拡張していきます。それからCFRPという高分子材料も、画期的なものができてくるかもしれません。
そうすれば、「日本は材料強いね」ということになりますし、構造用材料に限らず、新しい材料やハイレベルな材料が、どんどん日本から世界初で出ていくということが実現すると思います。
材料立国と日本は言われていたぐらいですから、底力もあるし、基盤技術もある。それを有効に絡めて、新材料創成の新しいシステムを作り上げるというのは、世界的にものすごくインパクトのあることだろうと思います。