自動運転
(システムとサービスの拡張)

プログラムディレクター

葛巻 清吾

トヨタ自動車株式会社 先進技術開発カンパニー フェロー

1985年京都大学工学部航空工学専攻修士課程卒業。同年トヨタ自動車に入社し、ボデー設計部に配属。2003年車両技術開発部にて車両安全の機能主査として技術企画、技術開発を担当。2019年より現職。

すべての国民が
安全・安心に移動できる社会へ

交通事故低減、交通渋滞の削減、過疎地等での移動手段の確保や物流業界におけるドライバー不足等の社会的課題解決に貢献し、すべての国民が安全・安心に移動できる社会を目指すため、「自動運転の実用化を高速道路から一般道へ拡張」するとともに「自動運転技術を活用した物流・移動サービスの実用化」する。

SIPを加速させる、12人の第一人者たちPD Interview

自動運転の
フィールドは一般道へ。

その実現には、「協調領域」における
技術のフォーマット化が必要。

交通事故低減、交通渋滞の削減、過疎地等での移動手段の確保や物流業界におけるドライバー不足。
これらの社会的課題の解決のカギを握っているのが、自動運転とその技術です。自動車メーカーで最先端の技術開発を担う、葛巻清吾PDにお話を伺いました。

Q

自動運転のプログラム概要を第1期との相違点も含めてお聞かせください。

PD

第1期では自動車専用道路で高度な自動運転を実現するということで、ダイナミックマップ(静的な高精度3次元地図に動的情報を紐付けた交通環境情報)の整備や、実証実験を行ってきました。第2期では、それを高度化するとともに、一般道にまで広めていきます。
また今、日本は高齢化社会を迎え、ドライバー不足など非常に多くの課題を抱えていますが、この自動運転の技術を活用した移動サービスや物流サービスを実用化することによって課題解決の道を探っていきます。
そこで第2期は、4つの柱をたて、プログラムを推進していくことにしました。1つめが、実証実験の企画推進。2つめが、さらなる技術開発。3つめが、社会的受容性を高めていくこと。そして4つめが国際連携です。

「自動運転イコール無人運転ではないんです」

Q

物流サービスではトラックドライバー、移動サービスではタクシーやバスのドライバーなど担い手が減少傾向にあるので、ゆくゆくは無人化へという方向性なのでしょうか?

PD

自動運転という技術を使うと、事故や渋滞が減ったりするなど、いろんな社会的メリットが生まれます。また、高齢で運転が少し困難になってきた人が、自動運転という技術にサポートされて運転の継続が可能になったりもします。
私は、「自動運転イコール無人運転」とは考えていません。例えば、物流サービスでは、ある地点までは今までどおり運転して、ある区間は自動運転のトラックで移動させるという組み合わせも可能になります。これによって、ドライバーという仕事がより魅力的になったり、肉体的な負担が減っていくというのもひとつの解だと思います。
「無人運転」に辿り着くには、リスクマネージメントや技術的な課題、社会的受容性など、様々なハードルがあります。また、新たな脅威として、ハッキングされてテロが起きるということも含めて考えると、まずは人ありきで、人と車とインフラが一緒になり、より良い移動方法になっていくほうが現実的ではないかと考えています。

Q

過疎地などにおける移動サービスの事業化はいかがでしょう?

PD

移動サービスは、地方のほうが進むと思っています。過疎地というのは移動手段の確保に本当に困っているわけです。例えば自動運転の車を使い、運転はシニアのドライバーさんに託す。そういうところから始まっていくのではないでしょうか。

「皆さんのマインドも
変えていかないといけない」

Q

自動運転は、予算面でも大きく、壮大なテーマですね。

PD

自動運転は自動車産業にとって100年に1度の大変革のひとつです。自動運転を本当に実用化しようとすると、技術の課題、それと法的な課題、そして社会的受容性の課題。3つの課題が立ちはだかります。技術は、日々進歩しますが、法的に担保されたものでないと、皆さんが安心できないということです。
これも第1期から、府省庁連携あるいは産学官連携で取り組んだ、SIPという施策があったからこそ、先端技術の実用化に向けて道路交通法と道路運送車両法を改正できたと考えています。
社会や生活に根付いている車であるからこそ、社会に自動運転を取り入れていくためには、インフラも法的なものも、また皆さんのマインドも変えていかないといけないということで、非常に幅広い活動が必要になります。

「どこまでが競争領域で、
どこまでが協調領域なのか」

Q

技術開発には、競争領域と協調領域が存在すると思うのですが、どこで線引きしたら良いのでしょうか?

PD

例えば、ダイナミックマップ。当初はどこまでが競争領域で、どこまでが協調領域なのか、議論をしても上手く噛み合わなかったのですが、実証してみると、技術としての議論が進み、ここまでは協調して揃えておかないと、「個々に体力だけ消耗することになる」というようなコンセンサスができていったんです。
自動運転は車を動かす時に、膨大なデータを使います。データのフォーマットとかインターフェイスの面では、必ず協調しなくてはいけません。各社がそれぞれ違う形式のデータを持っていてもそれは「宝の持ち腐れ」になってしまいます。

Q

次に産学官の連携について、お伺いします。ダイナミックマップの場合は、高精度位置情報の知見を持つ、機器、測量、地図、自動車などの「産」と、府省庁のオールジャパン体制が整いましたが、「学」との連携はいかがでしょうか?

PD

正直、第1期の最初は、「学」との連携が少し弱いという指摘がありました。ただ、競争と協調どちらの領域でも、「産」だけの力では弱い部分があります。そこで今回は「学」の人たちにも積極的に参加していただきます。

「競争領域がないと、
技術は本当に止まると思うんです」

PD

実証実験には金沢大学、また、安全評価のシミュレーションでは神奈川工科大学に中心になってもらっています。特に、インターフェイスを揃えるなどの標準化には「学」の力に期待しています。

Q

実証実験の中には、競争領域もありますね。

PD

もちろんです。私たちは場所を提供し、さらに信号情報等の交通環境情報、高精度3次元地図などのデータも提供します。その代わり車両やドライバーは自動車会社など参加者が準備します。要は、車の開発に関わる競争のところは各社で自由に、インフラに対するフィードバックはしっかり返していただき、PDCAサイクルを回すという形になります。競争領域がないと、技術は本当に止まってしまうと思います。

「最終的には、交通事故を減らす。
そこに向かっていきたい」

Q

第2期では、自動車専用道路から一般道へ自動運転のフィールドが広がりますが、その難しさというのは、どこにあるんでしょうか。

PD

一般道では、歩行者、自転車、オートバイなど、対象物が桁違いに多くなります。信号があるかないか、クロスする道があるのかないのかという要素もあります。そうなるとやはり一方向だけに車が走っている自動車専用道路の状況と明らかに違ってきます。その難しさは、10倍以上だと思います。
ですから、同じことが一般道でできるかというと、なかなかできない。それらの課題を克服して、できることを見つけ最終的には交通事故や渋滞を減らす。そこに私たちは向かっていきたいと考えています。