ビッグデータ・AIを活用した
サイバー空間基盤技術

プログラムディレクター

安西 祐一郎

独立行政法人日本学術振興会 顧問・学術情報分析センター所長

1974年慶應義塾大学院工学研究科博士課程管理工学専攻修了、工学博士。81年カーネギーメロン大学客員助教授、88年慶應義塾大学理工学部教授、2001年慶應義塾長(理事長兼学長)、11年日本学術振興会理事長、16年人工知能技術戦略会議議長、18年AI戦略実行会議座長、国連総長ハイレベルパネル「デジタル協力」メンバー。文部科学省中央教育審議会会長・同大学分科会長・高大接続システム改革会議座長、内閣府知的財産戦略本部員、経済同友会ITによる社会変革委員会副委員長・科学技術イノベーション立国委員会副委員長等を歴任。

Society 5.0を推進する
新たな知的社会基盤の構築

Society 5.0を具現化するためにはサイバー空間とフィジカル空間とが相互に連携したシステム作りが不可欠であり、未ださまざまな開発要素・課題がある。本課題では、「サイバー空間基盤技術」の中で特に、人とAIの協働に資する高度に洗練された「ヒューマン・インタラクション基盤技術」と、「分野間データ連携基盤」、「AI間連携基盤技術」を確立し、ビッグデータ・AIを活用したサイバー・フィジカル・システムを社会実装する。

SIPを加速させる、12人の第一人者たちPD Interview

人とAIが協働する、
身近なテクノロジー。

ヒューマン・インタラクション基盤
技術が
介護や教育を変えていく。

Society 5.0の実現には、サイバー空間とフィジカル空間が連携したシステムづくりが不可欠です。本プログラムではサイバー空間基盤技術の中でも、特に人とAIの協働に資する「ヒューマン・インタラクション基盤技術」について、安西 祐一郎PDにインタビューを行いました。

「AIの基盤技術を創出し、
産業構造の転換・新産業創出を狙う」

Q

「ビッグデータ・AIを活用したサイバー空間基盤技術」の狙いをお話しください。

PD

今、情報技術の先端に人工知能(AI)が存在します。AIは様々なデータの集合に対して、一種の規則性を発見してくれる技術です。例えば、写真や映像のデータから、その中に何が映っているのかを自動的に判別するなど、データの特徴を解析して規則性を自ら見つけ出してくれる技術となります。
サイバー空間上のデータは現在も飛躍的に増加を続けており、これらの膨大なデータをAIにより高度に解析し、様々な実世界のサービスで活用できるようにすることで、社会変革を実現できると考えています。
例えば、1450年頃、グーテンベルクが活版印刷術を発明しました。それにより、1517年、ルターの宗教改革が起こりました。活版印刷術によって、聖書が印刷できるようになり、庶民が聖書を読めるようになったからです。それまでは手書きだったため聖書を広めることが難しかったのです。つまり、活版印刷という技術革新が、キリスト教を変えたわけです。
同じようなことが今、AIにより起ころうとしています。情報技術の革新は世界全体を変えつつあります。英語ではデジタル・トランスフォーメーションと言いますが、産業のデジタル革命、すなわちデジタル技術を起点とした産業構造の転換・新産業創出が世界各国で進展しています。
このデジタル・トランスフォーメーションの基盤となる技術を我が国から創出するため、AIの社会実装の推進により、新たなビジネスモデル・新たなサービスを創出し、我が国の産業競争力の強化と社会課題解決を強力に推進していこう、というのが本SIPプログラムの狙いです。

Q

プログラム課題に、「ヒューマン・インタラクション基盤技術」を開発し、人とAIの協働が効果的と考えられる介護、教育、接客等にて実証するとありますが、その狙いを教えてください。

PD

まず、介護分野は、介護士の人手も不足しがちで大きな社会課題になっています。その中で介護者や被介護者を支援するための技術に取り組んでいます。例えば、非介護者の方が排せつしているかが自動的にわかれば、介護者のみなさん、ものすごく楽になります。
一般的に技術は、どうしても上から目線で、あれも出来る、これも出来る、というものが多いのですが、そのようなものではなく、介護者の方の本当に困っている部分を支援したり、被介護者の方が自立できるように支援したりすることが非常に大事だと考えています。

「マルチモーダル情報を活用し、
人とAIの高度な協調を実現」

Q

次に「高度マルチモーダル対話処理技術」についてお伺いします。

PD

例えば、車の中は雑音や騒音だらけで、その様な環境での音声認識は、そんなに簡単ではないのです。「人」と「人」の対話は、お互いが表情や姿勢、うなずきなどの言葉以外の情報を解釈することでコミュニケーションを取れるのですが、「人」と「AI」のコミュニケーションは大変難しいのです。
例えば、ロボットに対して人間が指令を出すシーンを考えてみます。ロボットの動作を人間がコントロールする時に日本語で、「ダメ」と言った時、人間であれば、まわりの状況を五感から取り入れることで、指令の意味を理解できますが、ロボットの場合は何が「ダメ」なのか理解するのが大変難しいのです。
「止まっちゃダメ」という解釈もあるし、「止まらなきゃダメ」という解釈もある。今、「ダメ」と言われたのは、「止まらなきゃダメ」、「止まれ」ということだと認識する必要があるのです。
そのために、ロボットに、距離センサー、赤外線など、多様なセンサーを積んで、それらのデータを解析し、「ダメ」という言葉の意味と総合して、多分こういうことなのだろうな、という解釈をロボット側が推論できる仕組みが必要となります。
もし、それでも意味を解釈できなければ、ロボットが指令を出している人間に対し、声で「ダメって何よ」と聞けばいいのです。このように人間とコンピュータの間の高度かつ知的なコミュニケーションを可能とする技術が「高度マルチモーダル対話処理技術」となります。

仕組みをもう少し詳細に説明すると、例えばアプリケーションが『大きな電子辞書』を持っているとします。そこに人間の「ダメ」と言った音声入力と、加えて、周辺のいろいろなセンサーのデータが入ってきます。それらを『大きな電子辞書』と突き合わせて、これは恐らく「止まれ」と言っているのだなということを推理するのです。この非常に複雑な仕組みを動かすのがAIの仕事となります。
今、世の中で、AIが「すごい!すごい!」と言われている理由は、AIが学習できる点がポイントなのです。例えば、「ダメ」という指示が、周辺のさまざまな情報を含めて解釈し、「止まれ」という意味なのだな、と解釈し、正しかったら、それを辞書に付け加えて、経験を積んでいくわけです。そして辞書がどんどん大きくなって、精度も上がっていく。そうすると、そのロボットが次に似たような場面に出会うと正しく答える、正しい行動をとる可能性が高まっていくわけです。

Q

正答率がどんどん上がっていき、人間を超越してしまうと、AIという存在に対し、不安を感じるタイプの人も増えるのではないでしょうか?

PD

欧米ですと、AI以前にITを使うことに対して、気分的なハードルが高くないのです。文房具みたいに使うのです。ただ日本の場合は、AIというと何だか「ITの先にある神棚」(笑)みたいな扱いが多いのも事実です。

Q

AIもディープラーニングも、若い世代にとっては、もはや身近なデータ活用という感じでしかないかもしれません。あくまでもツールとしての存在ですよね。

PD

新しい技術を不安に思う必要は全くないのです。確かに倫理や社会的な課題はあります。しかし、自動車に道路交通法があるように、個人情報保護、セキュリティ、知的財産権の問題など、ルールを整備し、それを守っていけばいいわけです。

「誰もが新たな情報技術を使いこなし、
生き生きとした人生を送るSociety 5.0を目指す」

Q

ヒューマン・インタラクション基盤技術の「学習支援技術」の研究について教えてください。

PD

学習支援技術もやはり生徒が個人の力で学び、伸びてくようにしていきたい。どこが得意で、どこが不得意なのか自分でわかって、楽しく学んでいけるように、そのためのサポートをAIでやりたいのです。障がいのあるなし、あるいは家庭の境遇とか、そのようなことに関係なく、誰もが生き生きと学んでいけるようにしたいですね。

Q

最後に先生がイメージされる、Society 5.0とは?

PD

私はサイバー空間の基盤技術を多くの人が分け隔てなく使うようになって、ひとりひとりが幸せになっていく時代をイメージしています。

Q

電話なんかも、ダイヤルの時代から、携帯電話、スマートフォンになって、通話するよりサイバー空間でいろいろ調べるデバイスに変わり、メリットやベネフィットはなだらかに変化しています。

PD

それが非常に良い例です。生まれた時からスマートフォンがある年代。そういう風に意識が変わっていくと思うのです。ごくごく自然に、みんなが新しい情報技術を使いこなし、楽しく、生き生きとした人生を送っていく。そんな時代がすぐそこにあると、私は思います。